ノモンハン戦争―モンゴルと満洲国 (岩波新書)

日本ではノモンハン事件の本というと戦闘自体を扱った本が多い。
それも、著者によると日ソの戦死者の多寡を調べることに熱中しているそうだ。たとえば、日本の方が戦死者が少ないから日本の勝ちだとか(^_^;
この本では、言語学者である田中克彦が「ノモンハン事件」を民族と国家というこれまでと別の視点で取り上げている。


興味深かった点を何点か上げてみる。
ノモンハン事件は日ソ間の紛争と言われているけど、モンゴル人民共和国満州国のモンゴル人居住地域の境界で起きている。それなのに、モンゴル民族のことはあまり触れられていない。
・日本もソ連(=ロシア)も地域紛争と呼んでいるのに、モンゴルでは戦争として扱われている。なのに、日ソ両国は少なくとも1万人以上の戦死者がいるのに、モンゴル軍の戦死者は数百人と少ない。
・日本では、ノモンハン事件辻政信を始めとする関東軍の暴走と考えられている。一方、ロシアでは田中上奏文に基づく日本の侵略戦争の一環と考えられている。日本では、田中上奏文自体が偽書と見なされているのに。


このようにへーっと思うようなことも書かれているけど、本書はノモンハン前後のモンゴルの歴史がメインなんで、ぼくの狙いとはちょっと外れていた。


同じ著者ならことばと国家 (岩波新書)の方を勧める。ぼくが読んだ新書の中でもベスト3に入る本だ。
これを読んでぼくの言葉に対する認識が大きく変化し、記号論などの思想系の本に手を出すきっかけとなった本でもある。それまでは歴史以外の人文科学系の分野には興味がなかったのに。

ノモンハン戦争―モンゴルと満洲国 (岩波新書)

ノモンハン戦争―モンゴルと満洲国 (岩波新書)